100年に1度の大変革期を迎えている自動車産業~バンコクにおける次世代モビリティ~
サワディーカー!LABタイ語学校です。
現在、100年に一度の大変革期を迎えている自動車産業。世界的なEVのシフトや激化する自動運転の開発、シェアリングサービスによる車の所有離れなど今後、自動車や移動の定義が変わることは疑いの余地がありません。
そこで今回はタイの首都バンコクにおけるこれら次世代モビリティについてご説明します。
次世代モビリティとは
そもそも次世代モビリティとは何でしょうか。
まずモビリティについて。モビリティとは「人や物、ことを空間的に移動させる能力、あるいは機構」のことを意味します。つまり次世代モビリティとは未来の移動手段を指すわけです。
今まではモビリティ=自動車産業という理解がありましたが、今後は自動車産業だけではなく都市計画やその持続的運用にも目を向ける必要性が出てきています。
次世代モビリティでキーワードとなる言葉はCASEとMaaSの2つです。
CASEとは以下のことを意味します。
C(Connected:コネクテッド)
A(Autonomous:自動運転)
S(Shared&Service:シェアリング/サービス)
E(Electiric:電動化)
これら4つの頭文字を取った造語です。CASEを構成する4つの技術要素を組み合わせて安全快適で利便性の高い次世代のモビリティサービスを構築することが狙いです。
次にMaaSとは何でしょうか。
MaaSとは以下のことを意味します。
・Mobility as a Serviceの略
・詳細:あらゆる公共交通機関をITを用いて結びつけたシステム
・目的:移動を効率良く、且つ便利にすること
既にフィンランドの首都ヘルシンキではこのMaaSが本格的に始動しています。スマートフォンのアプリ「Whim」を使用することで人々は移動しています。具体的以下のようにして使用します。
・アプリ内で出発地点と目的地を指定
・目的地までの経路について公共交通機関・タクシー・レンタカー・レンタルサイクルに至るま
での移動手段の候補が提示
・公共交通機関の遅延情報や渋滞情報も入手可能
・移動手段の料金の決済は「Whim」で一括で支払い、完結することが可能
日本の経路検索アプリ等との違いは主にレンタカーやレンタルサイクルの移動手段が提示されること、多様な移動手段の決済を1つのアプリで行えることの2点が挙げられます。
バンコクにおける次世代モビリティ
ここまで次世代モビリティとは何かについて説明してきたところで次にバンコクにおける次世代モビリティについてCASEとMaaSを用いて説明していきましょう。
コネクテッド
まずはCASEの頭文字であるC(Connected:コネクテッド)についてです。
タイは交通事故が多発していることが問題となっています。タイにおける人口10万人あたりの交通事故死者は32.7人であり、175カ国中9位です。この数値はASEAN加盟国で限定すれば1位です。以下がASEAN加盟国に日本を加えた人口10万人あたりの交通事故死者数のグラフです。
出所:WHO Global Status Report on Road Safety 2018
このグラフからもタイがその他のASEAN加盟国や日本を圧倒していることが分かります。こうした交通事故に加えて劣悪な路面状態や交通渋滞も問題になっています。
タイ政府はこういった問題を解決するために2016年からバスやトラックなどの商用車を対象にGPSの搭載を義務付けしました。全商用車のGPS情報が陸運局(DLT)に管理されており、交通情報が見える化されています。タイ政府のこうした積極的な関与から新たなコネクテッド分野での技術採用など市場拡大への後押しが期待できます。
また自動車メーカー各社は消費者に安全・安心なサービスを提供するためにコネクテッドサービスを積極的に提供していおり、トヨタ自動車の「T- connect」や本田技研工業の「Honda Connect」が実用されています。
自動運転
次にCASEのA(Autonomous:自動運転)についてです。
タイ政府は2035年までにタイ国内で登録する新車の80%を自動運転レベル4を達成した車にすることを目標に掲げています。
自動運転のレベルについては以下のようになっています。
自動運転レベル2と自動運転レベル3で大きな分かれ目となっており、運転主体が運転手からシステムに変わります。自動運転レベル4は特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施するレベルのことで、全体の中では上から2番目に相当します。運転手が運転操作に関して考える必要が無いことから「ブレインオフ」とも呼ばれています。
タイでは自動運転を導入すべく法整備などに取りかかっているのが現状です。
シェアリング/サービス
次にCASEのS(Shared&Service:シェアリング/サービス)についてです。
世界中で多様なサービスが普及しているシェアリングビジネスですがタイでも数多くのサービスが普及しています。以下が主なシェアリングサービスをまとめたものです。
タイでは他の東南アジア諸国と同様「Grab」が配車、ケータリングサービスで主流となっています。また日本ではSNSアプリとしてお馴染みのLINEが手がけている「LINE MAN」もタイのデリバリーサービスとして有名です。
電動化
次にCASEのE(Electiric:電動化)についてです。
タイ政府は他の世界各国の政府と同様EV化を推し進めようとしています。タイ政府が掲げている目標としては以下のものが挙げられます。
➀ 2030年までに国内生産車の3割をゼロミッション車に置き換える。
➁ 2030年までに温室効果ガスの排出量を20%から25%削減する。
➂ 2035年までにタイ国内で登録する新車の100%をゼロエミッション車にする。
④ 2035年までに公共充電ステーションを8万カ所に建設する。
現状はどうなっているでしょうか。現状としては以下のようになっています。
・タイの自動車普及台数:4071万台
・ゼロエミッション車(BEV+PHEV)
ー 普及台数:55719台(BEV:18644台 PHEV:37075台)
ー タイの自動車普及台数に対する割合:0.14%
・充電ステーション:約855ヶ所
(2022年6月30日時点)
現状、タイのEV事情としては電気自動車、充電ステーション共に普及しているとはいえません。この先、政府と自動車メーカーを中心とした民間企業が一体となって目標達成を目指していく必要があります。実際、タイ投資委員会(BOI)は電気自動車の製造をするメーカーに対して法人所得税の免除などの恩恵を付与することで国内での電気自動車の製造を推進しています。
次にタイのEV市場についてみていきましょう。以下がEV市場でシェアを占めている企業TOP5の順位と具体的な登録台数を表した表です。
▶ 企業別順位と登録台数
1位 MG:1,066台
2位 テスラ:222台
3位 ポルシェ:194台
4位 FOMM:109台
5位 ミニ:83台
(2022年6月30日時点)
タイのEV市場は、MGがシェアトップを占めています。MGは中国汽車グループの傘下です。そのほかにも長城汽車など中国メーカーがタイに進出又は進出を検討しており、タイのEV市場における中国メーカーの存在感は増しています。
タイはPM2.5をはじめとした大気汚染が問題になっています。大気汚染の程度を示す指標であるAQIは首都バンコクでは最大155、平均93(2022年10月24日に計測)となっており東京都新宿区の最大144、平均25(2022年10月24日に計測)と比較するとその深刻さが窺えます。
大気汚染の6割はディーゼル車の不完全燃焼であることからも電気自動車をより多く導入することがこうした大気汚染問題の解決に繋がることが分かります。
MaaS
次にバンコクのMaaSについて述べていきましょう。まずMaaSにはその完成度によってレベル分けされています。
これらを元に考えるとバンコクはレベル1に該当します。理由はグーグルマップなどのサービスをはじめとした情報の統合はされていますが、複数の移動主体を組み合わせたまま予約や決済などができないためです。
現状を考慮し、MaaSをバンコクでさらに推進するためには以下のことが必要です。
➀ 取り組みを主導する事業者の存在
➁ 主導者による種々の公共交通機関の巻き込み
➂ 移動手段間のデータ統合・連携
ー ユーザーの利便性を担保した乗り換えの実現に不可欠
④ ➂のための仕組みの構築
バンコクは他のタイの都市と比較して公共交通機関が発達しているため、MaaSを推進する土壌が揃っています。しかし競合の一面も持つ事業者同士が協働することには困難が生じます。このためには例えば利害対立の起きないタイの運輸省交通政策局などの政府機関が関連業者の統制を取ることが必要があるでしょう。
こういった課題を解決することがバンコクがMaaS先進都市になることに繋がるでしょう。
次世代モビリティがバンコクに与える影響
次に次世代モビリティがバンコクに与える影響について説明します。具体的には以下のことが考えられます。
・交通事故の解決
・渋滞の解決
・大気汚染の解決
・格差の解消
コネクテッドや自動運転は交通事故や渋滞の解決に繋がるでしょう。またEV化は大気汚染問題の解決になります。カーシェアリングやMaaSの構築は車を所有しておらず駅から離れた所に住んでいる低所得層と車を所有しBTSの駅の真横にあるコンドミニアムに住むような高所得層の間の格差の是正に繋がります。
最後に
いかがでしたか。
今回はタイの首都バンコクの次世代モビリティについて述べてきました。世界の潮流としては今後、自動車やモビリティの概念が大幅に変化することは疑いの余地がありません。
今後タイやバンコクが次世代モビリティによってどのように変貌を遂げるのか注目です。