「いすゞ・タイ」が、コロナ禍のなか業績良好な理由

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2020年の業績が予想より上回ったと発表した日本の自動車メーカー「いすゞ自動車」。その大きな理由として「いすゞ・タイ」の業績の良さが挙げられています。コロナ禍が全世界を席巻し続けるなか「いすゞ・タイ」に何が起きたのか調べてみました。

タイ・クラビ在住のchinagaの寄稿

 

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1.「いすゞ・タイ」の2020年度の売り上げを見てみる

2021年2月、2020年度の業績の見通しを予想より上方修正発表した「いすゞ自動車」。見通しにつきまだ未確定ながら、企業全体の売上高は1兆9000億円(前年同期比・9%減)、営業利益は900億円(前年同期比・36%減)と、 前回発表した見通しに比べ、売上高は4.5%増、営業利益は14.2%増の上方修正をしました。<いすゞ自動車2021年3月期 第3四半期 決算説明会資料より>

この理由としてタイのピックアップトラックの販売が好調だったこと、さらにはOEM(他社ブランド車の部品を含む委託製造)が増えたことが取りざたされています。つまり、「いすゞ・タイ」における業績が良好だったゆえの上方修正であるということになります。では一体「いすゞ・タイ」の状況は、数字的にどうだったのでしょうか。

残念ながら売り上げ台数についての発表しかなされていませんが、タイにおけるLVC車(商用車)のシェアが40.1%と前年度の31.5%から128%アップ、生産台数は9万1千台と前年度の7万5千台から121%アップ。これは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、観光産業を柱とする大きな打撃を受けたタイ経済において画期的なことだといえます。

観光産業を主軸としているため大打撃を受けている真っ只中のタイ経済ですが、タイの自動車市場が復活しつつあると唱える人もいます。2020年のタイの経済成長率はマイナス7.8%の見通し(アジア開発銀行発表)。消費もまだまだ低迷し続ける中、2020年の11月の新車販売台数は7万9200台、と1年半ぶりに前年度同月を上回りました。(前年同月比2.7%増、タイ工業連盟<IFT>発表)。 自動車産業がいち早い回復の兆しをみせているのは「いすゞ・タイ」という説は、あちらこちらから聞かれます。LVC限定ながらシェアが40%を越え、昨年を上回るというのは、この時期、驚異的といっても過言ではないでしょう。

 

 

2.「いすゞ・タイ」が好調だった理由。8年ぶりに人気車「D-MAX」のニューモデル発表

タイは「ピックアップ・トラック」と呼ばれる小型のトラックがよく町を走っています。とてつもなく大量の荷物を積んでいて、クルマを運転していると「前の荷台から荷物が落ちてくるかもしれない」と、不安になってしまうことも。一説によると、ピックアップ・トラック」はタイの全車両人口の60%を占めるとか。その用途は世界各国の使用状況に応じて使い分けられいるようですが、タイでは重宝しているようですね。そういえば、いわゆる軽トラみたいなものは見たことはありません。これは、タイには未舗装の道路や山岳地帯がたくさんあるため、馬力の問題なのだと思います。

雨期にはスコールもあります。「ピックアップ・トラック」は、砂利道やでこぼこ道でも、山道でも、雨でぐしゃぐしゃになった道も通り抜ける耐久性があるので、タイに向いているのでしょう。日本の「いすゞ自動車」は、「ピックアップ・トラック」を商用車の一部だと位置づけていますが、タイの人々は「ピックアップ・トラック」を仕事のためだけではなく、私用の乗用車として、週末や休日に家族と一緒に外出するために使っています。

他メーカー車も含めさまざまな「ピックアップ・トラック」がありますが、いすゞの「D-MAX」の人気はすごいものがあります。8年ぶりにニューモデルが発表された「D-MAX」は、外観のバージョンアップはもちろん、耐久性がさらに高まり、燃費がさらに良くなり、主に機能性が充実しました。「D-MAX」のメイン工場はタイ。後で述べますが、長い「いすゞ・タイ」の歴史のなかで、その年間販売台数の約70%は都市部以外での販売が占めるほど、地方で特に強い販売を担ってきました。 これはタイの道路状況によるモノだと思われます。

バンコクなど舗装された道路や細い路地では必要ない、どころかその大きさにかえって大きすぎて迷惑になる「ピックアップ・トラック」ですが、少し都市を離れるだけで、タイの道路状況は一変します。塗装されていない山道や強雨でぐちゃぐちゃになってしまいます。この状況に「ピックアップ・トラック」の代表格である「D-MAX」はベストマッチしたのですね。2019年に「D-MAX」をフルモデルチェンジ。タイで初公開したとたん、タイの地方を中心に大ヒットしました。

 

 

3.コロナ禍で「都市から地方へ人の流出」「ネット通販の急成長」が後押し

「『D-MAX』が売れている理由は、クルマ自体の性能の良さもあるが、コロナ禍の影響もある」と、あるタイ東北地区のディーラーの販売員は語ります。コロナ禍でバンコクなどの都心部に出稼ぎに行っていた多くの人が仕事を失ってしまい、それぞれのふるさとに帰ることを余儀なくされている現状。地方に帰っても当然仕事はなく、あれこれ考えた末に、今、急上昇中の「ネット通販」の配送を行なうのだとか。そもそも地方の主な産業は農業。ネット通販だけではなく、農作物の運搬も行なえるので一石二鳥なのです。

少し話しはズレますが、11月11日は、タイの「独身の日」。この日、タイのアマゾンこと「LAZADA (ラザダ)」がセールを行なったところ、2時間で約10億バーツを超える記録的な売り上げを記録したとか。「2020年は消費者、小売業者の間で大きな革命が起きた」と、 LAZADAのチュン・リーCEO(最高経営責任者)も、この時の様子を語っています。

従来、地方の主力産業であった農業。その作物の運搬に加え、ネット通販という新たに主力になった商品の配送業という新しい仕事を得るために「ピックアップ・トラック」の代表格「D-MAX」が、この消費が低迷するなか、あらたなビジネスを展開するために選ばれているのですね。

この状況は、タイだけにとどまらず、インドネシアでも同じようで、インドネシア自動車製造業者協会によると、2020年11月に限ってではありますが、自動車の販売台数は全同月比の4割以上減にもかかわらず、「ピックアップ・トラック」の販売台数はわずかながら上昇しているとのこと。これは、やはりタイと同様で、ネット通販の普及により、運搬の需要が増えていることが影響してようです。

 

 

4.「いすゞ・タイ」の歴史

「いすゞ自動車」は、1963年にタイで生産委託によるトラックの生産を開始し、その後1966年に「いすゞ・タイ」を設立。半世紀以上にわたり「 ピックアップ・トラック『D-MAX』」をはじめ、さまざまな商用車などの商用車を生産してきました。1974年にタイ国内向けピックアップ・トラックの生産を開始して以来、順調に生産台数を伸ばし、生産開始から56年と11カ月目、2020年に累計生産台数500万台を達成しました。

1999年に開始したピックアップ・トラックのオーストラリア輸出を皮切りに、海外への輸出も拡大し、2002年には、それまで日本で生産していた輸出向けピックアップ・トラックの生産もタイに完全に移管。現在、「いすゞ・タイ」は「ピックアップ・トラック」のメイン工場にまで成長し、世界100カ国を超える地域に輸出しています。

 

 

5.これからどうなる!?タイ自動車業界

この4月、ソンクラン直前からタイには第三波がきており、コロナの感染者数が再び急増しています。今後の動向次第では、さらに厳しい規制が取られる可能性もあり、これによって、さらなる消費意欲の減退や工場の稼働制限など、せっかく回復した自動車市場の滋養教が変化してしまうおそれがあります。

ですが、「都市から地方へ人の流出」や「ネット通販の急成長」は、もともとタイを初めとする東南アジアで考えられていたビジネスの流れであり、コロナ禍により想定よりタイミングが早まっただけなのかもしれません。この先、どのような需要が生まれ、何が求められるのか想像がつきませんが、適切なタイミングに、素早く対応していくことが重要になってくるのではないでしょうか。

 

タイ・クラビ在住のchinagaの寄稿でした。

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